成都にて。
四川大学の図書館を利用しての帰り、大学北門の近くのバス停手前でタクシーを拾った。
10メートルほど走ったところで、立って交通を見張っていた警官に止められた。どうやら、タクシーを拾ってはいけない場所だったらしい。
薄手の黒いダウンを着た若い運転手はしぶしぶと脇に車を停め、免許証か何かと思しき小冊子を持って警官のところへ歩いていった。
運転手は3分ほどして戻ってきた。
「お前のせいでキップ切られたじゃないか」とでも言われるかと思いきや、運転手は俺に行き先を再確認だけしてそのまま走り出した。なかなか潔い男であると感心した。
ただし、走っているあいだ中、無線で同僚か誰かに怒号を浴びせていた。四川方言なのでほとんど内容がわからなかったが、「規則がうるせぇ」といった旨であることだけは聞き取れた。
重慶でも感じたのだが、今回の旅行中、やたらと道路にパトカーが走っている。
もともと多いのかもしれないが、かなり本格的に交通規則を取り締まっているようである。
重慶では繁華街など各所に「タクシー・ストップ」が設けられていたが、全く機能しておらず、かえって非合理な状態になっていた。所定の場所で待っていたのに、空車にスルーされたりすらした。
今日も、バス停の手前が一番拾いやすいからこそ、俺はそこで待っていて、果たせるかな首尾よくゲットできたのだが、それをお巡りさんが取り締まってしまったのである。
かなり前の記事に、北京のタクシー業界と警察の間で何か対立が起こっているのではないかと書いたが、この街でも間違いなく「現場の秩序」と「上からの秩序」の間でせめぎ合いが起こっている。
タクシーは俺の目的地近くで、ちょうど赤信号で止まった。俺は「ここで降りる」と言ったが、降ろしてくれなかった。規則違反なのだろう。法は強制執行されることで社会を変えていくのか。
少々オーバー・ランした地点で降ろされ、13元を請求された。1元札が2枚しかなかったので10元札を2枚出すと、お釣りがないからと言って、その運転手は10元だけしか受け取らなかった。
おそらく捕まって待たされた分と、最後にオーバー・ランした分の割引なのだろう。
ますますもって潔い運転手だと感心した次第である。