台湾4日目。
昨晩、日本の実家よりメールがあり、台湾で反日感情が高まっているので注意しろという。
さっそくネットで調べたところ、大使館に相当する対台湾窓口機関である「交流協会台北事務所」が16日、尖閣諸島での台湾漁船沈没事件をきっかけに反日感情が高まっていると在台邦人に注意を喚起し、これが日本の各メディアで報じられているようだ。
確かに、行きの飛行機で読んだ台湾の新聞では反日色の強い報道がなされていた。
しかし、実際に台北の街を歩いている人たちがピリピリしているというようなことはない。今日の夕方は、お洒落なショップの集まる超高層ビル「台北101」に買い物に行ったが、誰にも殴られなかったし、近所の日本系デパート「新光三越」にはちゃんと客が入っていた。
では、なぜ上のような注意の呼びかけが行われたのであろうか?
もちろん、交流協会が心から在台邦人の身を案じてくれていることには違いないのだろうが、今朝のニュースを見ていて、どうもそれだけではないような気がしてきた。
そもそも、交流協会が在台邦人に注意を呼びかけるというのは、台湾に対する事実上の経済制裁である。
台湾に1度でも旅行したことのある人ならば、台湾がどれだけ日本からの観光客で潤っているかは簡単に想像できるだろう。
今日は昼から故宮博物院に行ったのが、中にはいつもどおり多くの日本人団体客が入っていた。また、2階の喫茶店で高いコーヒーを注文したら、レジのおばちゃんは日本では中国人に見間違われることもある私を一発で日本人と見抜き、片言の日本語で「ケーキ食べる?」と追加オーダーを求めてきた。
そんなお得意様である日本で、「台湾は危険」のイメージから旅行を躊躇する人が増えれば、当然台湾の観光業には大打撃のはずである。交流協会を通じて上の呼びかけを行うにあたって、日本の外務省は当然そのようなことは分かっているはずである。
ところで、今回の交流協会の呼びかけに先立ち、台湾側は強い抗議の意思表示として、駐日大使に相当する「台北経済文化代表処」の許世楷代表を召還している。
ひょっとして、「注意呼びかけ→観光大打撃」は、この代表召還に対する報復なのではないかと勘繰りたくもなる。
さて、今朝の台湾のテレビでは、前副総統である民進党の呂秀蓮氏が反日感情の高まりに懸念を表明したというニュースと、台湾で講演を行った大前研一が(どのようなニュアンスかは不明だが)日本は台湾に謝罪すべきであると語ったというニュースが繰り返し報じられた。
つまり、台湾メディアは今日から突如、反日感情抑制の方向に動いたように思えるのである。
呂秀蓮氏が反日に反対したというのは、台湾の観光業が打撃を受けることが確実な状況を、国民党に対する攻撃材料に転化した、なかなかうまい作戦であると見ることもできるだろう。
それから、いつも多くの客でにぎわう「誠品書店」の平積みを見れば分かるように、大前研一は台湾でかなり人気のある日本の知識人なので、彼が日本政府は謝罪すべきであると語ったと報じることは、台湾の人々が溜飲を下げるのに一定の役割を果たすであろう。
ともあれ、今回の交流協会による注意呼びかけは、台湾の政界やメディアを相当焦らせたのではないか、というのが私の観察である。適切かどうかは知らないので真に受けないようにご注意ください。
しかし、以上のように考えると、今回の注意呼びかけというのは、普通に喧嘩を買ってしまっているという、実に大人げない対応のように思えてくる。経済大国として、あるいはアジアのリーダーとしての余裕のようなものがまったく感じられないのだ。
もっとも、そんなプライドはもはや今のご時世には適切ではないというのであれば、台湾を対等なライバルと見なした、差別意識のない健康な対応だったとも見れるのだろうか。